ぎふの木の住まい協議会 事務局

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2025.02.07地域の工務店が建てる木造建築物 創業者の家/cafe mirai /蔵ミュージアム

株式会社鷲見製材

歴史が深く、民家や畑が広がる岐阜県・関ケ原。この地に溶け込むようにある「せきがはら間村」は、株式会社関ケ原製作所が展開する広大なアート空間だ。緑豊かな敷地にはアート作品が点在し、美術館やカフェなどもあり、地域に開かれた場となっている。ここに立つ「創業者の家」「cafe mirai」「蔵ミュージアム」3棟の建築を担ったのは、岐阜市に本社を置く株式会社鷲見製材だ。

創業者の思いを残した会社の精神を表す場所「創業者の家」

「創業者の家」は、創業者である故・矢橋五郎氏をしのび、氏の会社や社員への思いを表すために造られた建物。その建築を地域の工務店である鷲見製材が任された背景には深い意味がある。「もともとここには矢橋五郎の居宅がありましたが、ただの建て替えでは意味がなく、創業者の“匂い”が感じられて、理念が受け継がれていく場所でなければならない。設計施工を依頼する会社は、その思いや感性を受け取り表現できることが重要でした」と話すのは監査役の佐久間康二さん。その言葉に対して鷲見製材 代表取締役社長の石橋常行さんは「『会社はみんなのもの』という創業者の精神や経営の志といった本質的なものが、わが社の姿勢や家づくりに近いものがあると感じてもらえたことが、建築を任せていただけた要因だと感じています」と話す。

「きれいに建て直すのは簡単ですが、創業者の息吹が感じられる建物にするために、二代目社長の矢橋昭三郎氏に創業者の人となりや会社への思いをお聞きする機会を何度も設けてもらいました」と当時を振り返る。五郎氏は大企業を築いた名士でありながら質素を好み、それを表すかのように、当時の家の玄関も簡素であったこと。毎朝スーパーカブに乗って会社へ向かう姿を、窓から子どもたちが見送っていたこと。一生懸命働く姿が人間の美しさであるという思想。そうした話から創業者の美学や思いを感じ取り、玄関の造りや窓の配置、掘りごたつの採用などを丁寧にプランニングし造っていった。

「会社の歴史や創業者の考えを熱心に勉強されて、普通の人なら手に負えず逃げてしまうところを真正面から受け止め、理解しようと努めた姿勢が大変信頼できました」と佐久間さん。創業者の思いが形として現われた場所は、社内会議や大切なゲストを招く場として活用されている。

せきがはら人間村

DATA 〒503-1593 岐阜県不破郡関ケ原町2067番地 TEL 0584-43-1878

“生活”がキーワード。地域に開かれ人が集う「cafe mirai」

人が集まり、憩う場所をつくりたいという思いから実現した「cafe mirai」。中に入ると木の優しさに癒やされる空間だ。窓からは敷地内の緑だけでなく、近隣の家の屋根や手入れされた畑などが見えて、それらが室内と一体になり、心地よい空間を生み出している。

「人の暮らしや生活がこのカフェのキーワードです。鷲見製材さんの“豊かな暮らしを送るための家づくり”という理念は、私たちの感性とマッチしていました」と話すのはサブリーダーの山口知加さん。アイデアや意見を交換しながら楽しくプランニングは進んだという。

1階と2階をあえて吹き抜けにして空気感を共有したことで、オープンキッチンから聞こえる調理中の音がBGMに。おこもり感のある窓際スペースは書斎のような雰囲気。「2階のライブラリーにはアート作品も展示されているので、私たちが大切にしている身近な“生活美術”をゆっくり楽しむこともできます」。

地域に開かれたカフェにするため、1階は車椅子でも入れるフラットな床。2階は子どもを連れて気軽にくつろげる広いソファがあり、誰でもゆっくり過ごせる空間になっている。「高齢者施設の入居者の方が複数人で来店されたこともありました。地域の人たちに開放されたカフェが実現したのも、鷲見製材さんが私たちの思いを真剣に受け止めてくれたからだと思います」と山口さん。また、「社員が休日にプライベートで家族を連れてくるケースもよく見られます。社員にとっても心地よい居場所であるというのはうれしいですね」。

定期的に季節のイベントやワークショップも開催。社員と地域の人たちをつなぐ場としての役割も果たしているようだ。

cafe mirai

D A T A 営業時間 10:00~16:30(LO 16:00) 定休日 日・月・火曜日 TEL 0584-71-6455

木造建築が醸し出す空気感。外の自然と融合する生活美術館「蔵ミュージアム」

矢橋家がこれまでコレクションしてきた現代アート作品を1か所に集めて収蔵・展示する「蔵ミュージアム」。鷲見製材は美術館という特殊な空間を木造で建築するにあたり、美術館を手がける建築家やアートの専門家から学び、造りあげたという。展示品に合わせて空間全体をひとつの作品とする部屋のつくり方や、外の自然も取り込む窓の配置など、同社にとっては全て新しい取り組みだ。

来館者の中には「神社のような雰囲気」と表現する人もいるそうで、木造建築が醸し出す空気感を各々に感じているようだ。現在、美術ファンの他に建築関係者からも見学の問い合わせがあり、「多くの方に注目していただき、蔵ミュージアムが社格を上げているように感じます。取引先の方をご案内したり、就活生に会社の風土を知ってもらうきっかけにもなっています」と理事長の福本武彦さん。会社で人生の3分の1を過ごす社員にとっても、敷地内にアートがあることが心の豊かさにつながるのではないだろうか。

最後に佐久間さんが「この生活美術館は自然環境にマッチしていなければなりません。今回、岐阜県に根付き、県産材にこだわった家づくりをしている鷲見製材さんだからこそ、一緒につくり上げることができたと思います」と教えてくれた。

蔵ミュージアム

D A T A 案内時間 木・金・土曜日 PM13:00~ TEL 0584-43-1878(関ケ原ゼネラル・サービス株式会社)※完全予約制。申し込みは電話かWEB(見学予約)より

取材協力:株式会社鷲見製材

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