ぎふの木の住まい協議会 事務局

close close

2024.12.31「子育て」のことを考えた家づくりとは ―工務店×臨床心理士による対談―

凰建設株式会社

昨今、子どもを取り巻く環境はさまざまに変化しています。一番安心できる場所である「わが家」は、子どもにとってどんな環境が好ましいのでしょうか。今回は、家づくりのプロである工務店・凰建設の会長、森幹治さんと心に病を抱える数多くの方と日々接している臨床心理士の柳澤博紀さんにお話を伺いました。家庭での子育てのポイントは「気配」と「コミュニケーション」にあるようです。

凰建設株式会社 会長 森 幹治(もり みきはる)

日本の木造建築の質を上げるため全国各地を飛び回り真の健康住宅、真の高性能住宅の重要性を伝える活動に尽力。LIXIL全国スーパウォール会・顧問や省エネルギー住宅推進協議会・会長など、さまざまな団体で役員を務める。その他、本の執筆、各種講演会等、幅広い分野で活躍中。

臨床心理士・公認心理師 柳澤 博紀(やなぎさわ ひろのり)

数カ所の精神科クリニック、小・中学校、高校のスクールカウンセラーや不登校支援施設のカウンセラー等に従事。2013年4月より、犬山病院の心理士として認知行動療法の実践をする傍ら、実践研究も積極的に行っている。また、数カ所の大学、大学院の非常勤講師も務めるほか、心の病を予防する側面から、各種講演を行っている。

家づくりに大切なのは「子育て」を考えること

 私が家づくりにおいて「子育てをする環境」ということを強く意識するようになったのは、(財)住宅産業研修財団が事業主体となり、国土交通省が推進している「大工育成塾」の塾長・松田妙子さんとの出会いがきっかけです。松田さんは2 × 4工法による住宅づくりを手がけたり、その当時の通産省と建設省と共同で国主導のマイホーム開発・持ち家政策をけん引した方。弊社は、大工育成塾には受け入れ工務店としてエントリーしたのですが、面接を受ける中で、講師をやってくれないかと声をかけていただきました。その時に、私が書いた書籍『気配を活かした住宅建築』と松田さんの『家をつくって子を失う』という著書を交換しました。それを拝読すると、子ども部屋に対する考え方、気配を感じる空間づくりの考え方など、根本的な考え方が一緒でした。やっぱり「気配」って子育てに関わってくるんだなと、そこで確信を持ちました。

柳澤 「気配」ということで言うと、引きこもりの問題は気配が感じられない間取りであるということも、その要因にあるように感じられます。そこで何をしているのかが家族には分からない。そして引きこもっている部屋にテレビやゲームなど本人が満たされるものがあれば、自由にそこで生活ができ、引きこもりが維持されやすいだろうなと。なぜ引きこもるのかという大前提の話をすると、外に何らかの辛い要因があって、家にいるほうが居心地がいい。誰にも邪魔されることがない自分の自由になる空間に閉じこもりたくなる。基本的にどんな人でも外で生きていくって辛いですよね。割合でいうと、10の中で8が大変で2良いことがあればいい。社会に出てやっていくのはそういうことだと思います。だから子育てを通して、1 0 0 %自分の思うようにいく環境はないんだということをちょっとずつ教えていく、感じ取ってもらうようにするのが、家庭では大事なのかなと思います。

子ども部屋がなぜ必要かを改めて考える機会に

 誤解を恐れずに言うと、「居心地の悪い子ども部屋をつくりましょう」。「子どものプライバシーをあえて侵害しましょう」ということを、家づくりのプランニング段階でお施主様に投げかけています。あくまでも子ども部屋は寝るだけの場所。思春期に悩んだりシクシク泣く場所が必要なので、そのためだけのもの。4.5帖の広さがあれば十分です。子ども部屋は何のためにつくるのか。勉強机を置いて、「子ども部屋=勉強部屋」とする考え方が日本では一般的ですが、小さいうちは勉強はダイニングテーブルですればいいと思います。そうすると自然と家族といる時間が長くなる。親の目の届くところにいたら会話の時間が長くなる。特にご兄弟のいる家庭では、下の子は上の子に勉強を見てもらえる環境づくりにもなります。教える方も学びにつながりますからね。リビングで勉強をする。リビングに階段を設けるということは、数年前からメディアなどでも多数取り上げられていましたが、コミュニケーションを育むという部分においても、ブームではなく理にかなっているのです。

「気配」を感じて適切なコミュニケーションを

柳澤 子ども部屋にこもるのではなく、家族が集うリビングやダイニングに居る習慣。森会長が最初におっしゃっていた「気配」の話に戻りますが、お母さんが今料理をしているなって感じるのもそうですし、子どもが親に「今日こんなことがあったよ」と何気なく話すことなど、そういうところから人と人とのコミュニケーションが生まれてきます。良いことをしたら褒めてもらえる、悪いことをしたときは叱られる、話をちゃんと聞いてもらえる。そのバランスと、相互作用のあるコミュニケーションが大切です。家庭の中で適切なコミュニケーションの機会が増えれば増えるほど、社会に出ても適応しやすくなると思います。

 人の「気配」を感じられるっていうのは、そこから自然とコミュニケーションが生まれてくるんですね。昔の日本の家は、夏になったら窓を開け放って、子どもたちが騒いだりしたら「静かにしなさい。裏のおばちゃんが風邪で寝込んでるんだから」って母親に怒られたりして。そんな中で子どもが、裏のおばちゃんは風邪なんだってちょっと気になったり、静かにしなきゃって思ったり、〝心配りのコミュニティー〞というか、そういうことを大切にしていたし、暮らしの中で自然と子どもに教えていたんですよね。

柳澤 人と人とのコミュニケーションの延長線上にコミュニティーが作られていく。そのことをちゃんと理解しておかなければいけませんね。そういう感覚がなくなっていけばいくほど、人に気を遣わないとか、自分さえよければいいとか、もっというとそれすら考えずに、自分本位な考えであっても「こうするのは当たり前でしょ」って思ってしまったり。それでおかしな犯罪が起きてしまっているような気がします。

心の病は予防できる。子育てをする環境が大切

 家を建てる方たちは、99 %家族と一緒に住むため、子どものために家づくりをする方たちではないでしょうか。なので、家づくりを通して、そのご夫婦の子育てに対する考え方をしっかりとプランニング段階から落とし込んでいきます。どんな子に育ってほしいのか。そのためにはどんな躾けやコミュニケーションを取っていくのか。それを実現できる家の間取りはどういったものなのか。その中で先ほどお話しした子ども部屋をどうするのかという話にもなってきます。そして何度もいいますが、常に家族の「気配」を感じることができる、コミュニケーションが取れる間取りにしていきます。

柳澤 私が講演させてもらったときによくお伝えしていることが、「心の病には、予防が可能なものも多くある」ということです。それは子育てによっても予防できます。その子の置かれた環境が適切であればあるほど、適切に育っていきます。また、将来社会に出たときのことを考えていくと、隣の気配を感じながら、気遣いながら、ちょっとうるさいな嫌だなって感じても、そんな中で自分が楽しめることをうまく探していけるようになればいいと思います。そのことをちゃんと理解して、人の「気配」を感じながら子育てができる家をつくることは、とても大切な考え方だと思います。

森 子どもって、自分が見た親の行動を真似して育ちますから。だから親は自分たち自身のことも正さないといけません。まっさらで生まれてきた子どもは、家庭の中で色んなことを習得していきます。

これからの子育て世代へ。家事動線による時間の捻出

柳澤 家庭の中で適切なコミュニケーションを取ることが大切というお話をしてきましたが、今は核家族で共働きのご夫婦が多いですよね。世の中のお父さんお母さんは、仕事に家事に育児にと、とても忙しいです。仕事から帰ってきて、夕飯の支度だったり家事をあれこれしないといけないときに、子どもが言うことを聞かないとすぐ叱ってしまう。そういうことを考えると、「気配を感じる間取り」も大切ですが、それと同時に「家事動線を効率よく考えた間取り」もポイントになってくるかと思います。家事を効率よくこなして、子育てにかける時間の余裕づくりも大切なことです。

 忙しいご夫婦のために、家事動線を短くして時間を生み出す。機械ができることは機械に任せる。親子の触れ合いが多く取れるような間取りは大切ですね。私の妻も凰建設で一緒に働いているのですが、私たち夫婦は第一子が生まれてからほぼ毎晩、子どもをどうやって育てようかとか、子どものことに関する〝職員会議〞を行ってきました。そして、色んな人の意見を聞いたり本を読んだりして子育てに関して本気で取り組み、勉強しました。弊社で家を建てて暮らし始めたお施主さんの住み心地や、数年経った頃にお子さんたちが成長していく過程はどうだったかなどのお話を聞かせていただき、個人的な意見ではなく統計として「子育てに良い家」とはどんな家なのか、情報を持つようにしています。

子どものことを考えた無垢材や自然素材のススメ

 子どものために弊社がもう一つ大切だと考えているのが、室内が人の成長にいい影響を及ぼす箱でないといけないということです。V O C ※やカビが発生している空気環境の中で生活すると、意識障害やアレルギーなどの健康被害を及ぼします。そこで、家づくりに使用する建材は自然素材をすすめています。また、最近の子どもはコンクリートの上を歩くことが多く、高い確率で扁平足になってしまう恐れがあると言われていることから、家の床には無垢材を使うのがいいでしょう。無垢材は空気を含んでいるので、柔らかく足触りもいいですし、調湿作用もあり、室内空間を快適にしてくれる一助にもなります。

柳澤 凰建設さんの家のように自然素材で建てることで、子どもの健康のために敏感になることも減り、その分の時間や気持ちをしっかりと子どもに向けることができますね。また、これからの時代はどんどん多様化していきます。その中で一人一人に対して適切なコミュニケーションが図れるのか…。自分自身、心理士ですが難しいと感じています。なので、できることは予防していくこと。子育てこそが大事になってきます。「子どもを育てるためにどんな家をつくろうか」という視点をもって家づくりに取り組んでいる凰建設さんのような工務店さんはすごい。これからもっと大切になってくる家づくりの考え方の一つだと思います。

※VOC とは、揮発性有機化合物(Volatile Organic Compounds)の略称であり、 揮発性を有し、大気中で気体状となる有機化合物の総称。VOC による室内での健康被害は、シックハウス症候群や化学物質過敏症が言われている。

凰建設の考える子ども部屋

1、ベッドの下には何も置かない

 常時掃除するために何も置かないこと。埃などがたまると、気管支炎やアレルギーになることも。

2、部屋のあちこちに衣類を置かない

 気がよどみ、埃もたまりやすくなり、脳の働きを悪くすると言われている。衣類の収納にはクロゼッ  

 トを設ける。

3、あえて動線を重ねる裏技

 例えば、ベランダへ干し物を運ぶときは子ども部屋を通るような工夫で、子どものプライバシーをあ 

 えて侵害する。

4、長居のための道具は置かない

 テレビやテレビゲーム、パソコンなど、部屋にこもりがちになるようなものは部屋内には置かない。

 鍵なんてもってのほか。

無垢材について

表面をこすり、年輪の凹凸を際だたせた無垢の床材「うづくりの床」。足裏に受ける刺激が心地良く凹凸で滑りにくいため、子どもからお年寄りまで、だれでも歩行が楽に感じる。無塗装で、冬は暖かく、夏はひんやりと、素足での暮らしが楽しめることも自己治癒力を高める効果の根本と言える。

無垢材を使ったテーブルの天板。この特徴は、真ん中に芯がある板を使っていること。通常、板は真ん中が割れてしまうが、これは生きている木なので割れることがない。乾燥機で高温で乾燥させると木の細胞が死んでしまうが、じっくりと自然乾燥させたからできる、手間暇がかかった貴重な木材。

取材協力:凰建設株式会社

トップへ