2024.12.31社寺建築を通して技術と文化を継承 大工・伝統の技を生かす
白木建設株式会社
職人から職人へ1000年以上の長きにわたり伝統的に受け継がれている、宮大工の技。そこには、木を熟知し、木を生かし、丈夫に美しく仕上げるためのさまざまな知恵が詰まっている。現代においては希少となった彼らの存在と、その文化を受け継ぐ意義を探る。
木を知り尽くした「宮大工」という存在
日本には「宮大工」という職人がいる。主に神社や仏閣などの伝統的な社寺建築を手掛ける大工を指す。宮大工の歴史は古く、7世紀飛鳥時代から続き、その技術は宮大工から宮大工へと今日まで脈々と受け継がれている。法隆寺や薬師寺など、1000年を超えてもなおビクともせず、現代でも色褪せない美しい建物が現存することは、彼らの技術力の高さを証明している。宮大工はその専門性の高さから決して数は多くなく、希少な存在といえよう。そんな宮大工の技術を使って、県内外の多くの社寺建築や修理を手掛けているのが白木建設である。同社の大工9名のうち、7名は宮大工の出身。宮大工の親方の元で15年20年修業し、技術を磨いてきた人ばかりだ。毛利勝美さんもその1人で、大工となって27年。これまで社寺建築と住宅を合わせて50棟以上を手掛けてきた。毛利さんによると、社寺建築の第1の特徴は、木を使って人間の手で建築物を造る技術だという。それにはまず、木の素性を見抜くことも大切な技である。木の癖、育った環境、素性を見抜き、適材適所に使用するということ。木の種類によってどういう特性があるのか知っておくのはもちろん、木は切られてから反りが出るといった癖があるため、それを計算して木材を作らなければならない。そして組み上げた後も、どう反りが出るのかを予測し、使用する向きを考慮するのだ。「植わっていた状態と同じように、南に向いていたものは南に配置するのです」など、宮大工ならではの鉄則に従って木材を使用していく。そうすれば年月が経って木が反っていったとしても、より強固に支える力となるため、丈夫さが増すということだ。宮大工の造る建物が丈夫なのは、彼らがこうした木の特性を熟知し、それを踏まえ構造力学に沿ったつくりがなされているからである。
気持ちが入った 人の手による伝統技術
宮大工の仕事は、現代の住宅建築で当たり前となっている金物を使わず、木組みにより固定する手法が特徴的だ。木と木を同じ方向につなげる「継手」、交わるようにつなげる「組手」、柱や梁のL字部など方向の異なる部材をつなげる「仕口」など、その種類は実に100種類以上もあると言われている。だからこそ、技術の習得に最低でも10年以上という長い年数がかかるのだ。「お寺などの建築では基本的に、柱や桁など、全部木が見えるように建てられています。組んでいるところも隠せないのです。そこで、どこを見てもきれいに見えるように建てなければなりません」と毛利さん。だから木組みで美しく仕上げる必要があるのだ。また、美しさを表現するため、雲肘木(くもひじき)などの彫りものも欠かせない。龍や動物を象ったものや規模が大きい本格的な彫刻は彫物師という専門職が担うが、ちょっとした彫刻を施すのは宮大工が行う場合がほとんど。滑らかな曲線と繊細な彫りにより、建築物に華麗さが加わる。これらは全てノミを使って削り出し、彫り込んでいく熟練の技術が必要だ。継手や組手、仕口を作るためには、ノミやカンナで微調整しながら木を加工していく必要がある。職人の手作業であり、技の見せ所だ。これにはどうしても手間がかかり、工期も一般の住宅建築より長くなりがちである。「人間が作るものには気持ちが入っています。それが文化として受け継がれていく。文明が発達して便利になるのはいいことですが、残すべき文化がここにはあるのだと思います」。と同社代表の白木さんは宮大工の文化を伝えていく意義を語る。遠くない将来、今ある職業の多くの分野でAIが取って代わる日が来ると言われている。建築の分野でも機械による自動化がさらに進むだろう。しかし、この「人の手」による気持ちのこもった技は、いくらAIが進化しても再現できないのではないか。毛利さんたちはそんな自負を持って宮大工の技術を受け継いでいく。こういった宮大工の技術はもちろん、白木建設の一般住宅建築にも生かされている。木の特性を熟知し適切な場所に使う、木の模様を踏まえ美しく仕上げる、ときには造作家具に彫りものを施す。宮大工の伝統技術があるからこそ、一般的な住宅とは一味違う、丈夫で美しい家を造ることができるのである。
道具を大切に扱い自分のものにする
毛利さんの使っている道具を見せてもらうと、ノミとカンナの種類が非常に多いことに驚く。加工する部分の形状や目的により使い分けるため、これら全て必要だという。「叩きノミ」は柄の先端部に付いている金属をげんのうで叩いて木の細工を行う。「突きノミ」は長い柄を両手で握り、突きながら切削を行う。ほかにも仕上げに使う「さらいノミ」や、建具に使う「薄ノミ」などがある。カンナも、木の表面を滑らかに仕上げる「平台鉋」、角を取る「面取り鉋」をはじめ、大小さまざまなものや刃が曲面になっているものもある。これら道具の手入れも、宮大工の重要な仕事である。毛利さんも、常にいい切れ味を維持できるよう、自らこまめに刃を研いでいる。作業場の片隅に研ぎ石を用意し、いつでも研げるようになっている。宮大工は「自分の使う道具は自分で作る」と言われるくらい、道具を大切にしながらメンテナンスして調整し、道具を自分のものにしている。社寺建築が美しく仕上げられるのは、こうした道具の状態がいいからこそと言えるだろう。